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2007年12月16日 (日)

東アジアの古代文化を考える会・講演会「三角縁神獣鏡研究の現状」

Photo_2昨日の12/15、池袋で開催された新井宏さんの講演会を聴いてきた。鉛同位体比のことを勉強し始めてから一度お話をお聴きしたいと思っていたので、楽しみにしていたのだが、期待に違わず面白い講演会だった

新井宏さんといえば、15年前に高麗尺批判の本を出したので有名。最近は鉛同位体比やC14関係の論文を次々と発表され、今年『理系の視点からみた「考古学」の論争点』(大和書房)を出版された。今回の講演は先月池上曽根弥生学習館で行われた「東アジアの鏡文化-卑弥呼の鏡は海を越えたか-」と題される三角縁神獣鏡フォーラムの内容紹介を目的としたもの。

ジェットコースターのような講演会の内容を日記で紹介するのは難しいが、いくつかトピックを書くと
・三角縁神獣鏡の舶載-ボウ製の区別が認め難くなってきた→橿考研の『古鏡総覧』では舶載・ボウ製区分表示を止めてしまった。
・魏晋倣古鏡(ボウ製鏡的な鏡)の存在→中国でも下手くそな作りの鏡もある。
・銅鏡の製作技術がいろいろとわかってきた→中でも三角縁神獣鏡に特徴的な「線キズ」が中国鏡には認められない→日本と中国の湿度差、二重構造の鋳型などが関係しているらしい。
・長方形鈕孔も三角縁神獣鏡の特徴として注目されているが、原型からコピーを作る際、長方形だと作りやすい→量産するための技術と推定
・菅谷文則氏によると、洛陽・山東省の出土鏡1700枚には「同型鏡」がない→「同型鏡」は日本だけの特徴
・三角縁神獣鏡の意義付けも、卑弥呼への下賜鏡→下賜に続く特注鏡と考える研究者が増えた(=卑弥呼の鏡ではない)。
・製作地も洛陽→渤海湾沿岸→楽浪と考える研究者が増え、あと一息で日本へというところまで近づいてきている。

鉛同位体比の研究で興味深いのは、
・大和天神山古墳や兵庫・城の山古墳、鶴山丸山古墳など同じ古墳に副葬された鏡種の異なる鏡同士で鉛同位体比が一致する。
・同じ製作年を持つ紀年鏡同士で鉛同位体比が一致せず、異なる紀年の鏡同士で鉛同位体比が一致、おまけに2グループの鉛同位体比に分けられる。
といった話で“他人の空似的”な鏡-外見は違うが中身(青銅原料)は同じものがあるというのはちょっと驚きだと思う。新井さんは古墳築造に際して一括して作った鏡の可能性が高いとし、「葬式の花輪」のような鏡と例えていたが、思わず笑ってしまった。いわゆる「踏み返し鏡」の議論がまたぞろ再燃しそうな気配を感じた。

中国での鉛同位体比研究は1300件もあるにもかかわらず、殷・周時代の青銅器の測定データばかりで、漢・魏晋代の銅鏡に関するデータはないというのもちょっと意外な話。漢~魏晋代の銅鏡については日本出土の測定データしかないのが現状で、新井さんも後漢~魏晋代(漢鏡6-7期)の真の中国鏡の鉛同位体比同定には苦労されている。
最近、岡村秀典氏や福永伸哉氏が三角縁神獣鏡の祖型として位置付ける「斜縁神獣鏡(写真)」の鉛同位体比を“魏鏡”と見なして鉛同位体比を比較すると、三角縁神獣鏡A段階(初期段階)の鉛同位体比と斜縁神獣鏡では分布にズレがあり、むしろ三角縁神獣鏡の鉛同位体比は庄内期や古墳早期のボウ製鏡と一致するという。

また三角縁神獣鏡の鉛同位体比分布のライン上(A式図右上方)には、弥生後期青銅器の鉛同位体比のエリア(領域A)があることから、新井さんは三角縁神獣鏡作成時に魏晋代の青銅原料への弥生後期青銅器の添加を指摘されていた。

新井さんは三角縁神獣鏡国産説なのだが、非常に流行したものには必ず“偽物(コピー・イミテーション)”が作られるとし、ルイ・ヴィトンの鞄を例に出されていた。確かに韓国明洞の屋台で売られている偽物と免税店で売られている本物はちょっとみ見分けがつかない

とにかく新井さんは話のスピードが速い、事前に予習してないとついていけない感じだ。“青銅器のDNA”ともいえる-鉛同位体比を使って銅鏡のナゾを鮮やかに解いていく話は本当に楽しく、3時間の講演会が短く感じられた。

ただ惜しむらくは考古学的な「モノ」の分析もやっていただけると、さらに研究に重厚感が増すように感じた。そんなことは新井さんは百も承知だろうが、何か考古学者に対して一歩距離を置かれている…考古学の世界はそれほどに排他的なのだろうか…

写真出典
愛知県東之宮古墳出土:『鏡の時代-銅鏡百枚-』近つ飛鳥博物館平成7年度春季特別展図録(1995)

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